2018年2月18日

第13回 総会議案

2017年度のまとめ

昨年の総会で確認した「2017年度の重点課題」に沿って、まとめます。

(1)引き続き、被害者に寄り添い、救済に全力をつくす

2017年度の新規相談件数は7件(2016年度と同数)でした。その多くはクボタ旧神崎工場が操業していた小田地域に居住していたか、通学・通勤をしていた人たちです。
相談に繋がる機会は、「尼崎の会」構成団体や会員の紹介、解決した遺族の紹介、「尼崎の会」のホームページを見て、などです。
2006年の石綿救済法施行当時は、多くの場合、環境再生保全機構に認定申請すれば約2カ月で認定結果が出ていましたが、今日では審査に3、4カ月、半年以上という時間がかかり、生存中に認定決定がされることは稀になってきました。
それでも「尼崎の会」は、被害者遺族に寄り添い、解決まで全力をつくす努力を続けています。
国は、「環境再生保全機構」への申請の「時効」をなくす判断をしましたが、たとえ中皮腫で死亡しても、病理組織検査など医学的な確定診断が求められ、肺がんに至っては、死亡後に数年するとX線フィルム、CT画像等が処分され、医学的資料が整わず、申請すらできないケース、申請しても審査にたどり着かないケースもあります。統計上は「取り下げ」と仕訳されます。
いわゆる「クボタショック」の翌年(2006年6月)に、国がつくった「石綿健康被害救済法」は、国が責任を認めた賠償制度でなく、責任を曖昧にした「救済」法で、死亡時の支給額は葬祭料込みで300万円足らずの低水準に抑えられており、申請に対する認定率は、中皮腫でも83.4%(昨年は85.4%)、肺がんでは50.2%(昨年は48.6%)、全体でも73.2%(昨年は74.5%)=2017年10月31日現在=と低い水準となっています。認定基準が厳しすぎるからです。「クボタショック」直後に環境大臣が「隙間のない救済」を約束していましたが、「制度はつくったが完全救済はしない」というものです。

(2)国・加害企業の責任を問い、完全救済をめざす

私たちの運動のスタートが、アスベスト被害者の掘り起しと救済、有効な検診制度の確立、そして、国が規制を怠った(むしろ、積極的にアスベスト使用を奨励した)ことによる被害の拡大の責任、クボタが製造工程においてアスベストを有害であることを認識しながら工場周辺に撒き散らかせた責任を問うことからでした。クボタ旧神崎工場を中心とした小田地域に被 害が集中し、今後も増え続ける懸念があったからです。
現に、いわゆる「クボタショック」から12年が経過し、13年目を迎えようとしています。昨年6月末段階でクボタが明らかにした、クボタ旧神崎工場周辺住民のアスベスト被害者に対する「救済金」の支払いは309人に及び、クボタ労働者に労災上乗せ補償をした212人とあわせて、521人が犠牲となっています。この傾向は、今後も続くと思われます。
最高裁で加害責任が明確になったにも関わらず、クボタから、いまだに山内さんへの謝罪はありません。もっとも、クボタは環境型の裁判を通じて「50年の経過後に『排出行為に無過失責任』を負わせるのは、経済活動の自由及び財産権に対する侵害で許されない」と主張していましたから、謝罪する意思はなく、「いのちを金で買う」のがクボタの姿勢でしょう。
クボタは、環境再生保全機構の「認定」を前提に、「救済金として、最高額4,600万円、最低額2,500万円をお支払い致します」として、加害責任を曖昧にしたまま「救済金」を支払っています。しかし、機構の「認定」被害者全員に支給しているわけではなく、支払いを拒否した事例もあります。
クボタは、資本金841億円、総資産は2兆7,446億円、2017年12月期の営業利益は1,441億円を超える日本を代表する大企業の一つです。
クボタは、人口密集地の旧神崎工場で1954(昭和29)年から95(平成7)年までの41年間にわたって23万トン(中皮腫を発症するリスクが500倍とされる青石綿8.8万トンを含む)を超える大量のアスベストを使用し、石綿セメント管や建材を製造してきました。そして、製造工程から発生したアスベスト粉じんを工場周辺に撒き散らしてきたのです。クボタ旧神崎工場周辺のアスベスト被害者は、アジア最大の規模となっています。この深刻な犠牲の上に、今日のクボタがあるのです。
社会的影響力をもつクボタは、加害責任を真摯に認め、被害者全員に、正式に謝罪すべきです。

建設アスベスト訴訟、国を相手に7連勝。建材メーカーの責任も認める

2017年10月24日の横浜地裁判決、同月27日の東京高裁判決は、いずれも建設作業労働者の肺がん、中皮腫などのアスベスト被害をめぐって国と建材メーカーの責任を真正面から断罪し、賠償責任を命じました。国に対しては7連勝です。
このダブル判決では、建材メーカーすべてに、重大な疾病罹患の危険性と、防塵マスク着用の必要性を警告すべき義務に違反した責任を認め、最大職種で全体の半数を占める大工についてメーカーに賠償を命じ、「労働者に当たらない」として国による救済を拒否されていた一人親方についても、多数の方でメーカーに賠償を命じたのです。
これによって、一人親方、零細事業主を含む全ての建設作業従事者の被害者を対象に、国とメーカー全体に負担を求めた基金により、裁判で認められるレベルの補償を行う基金制度の構築が可能な状況となりました。まさに、国と建材メーカーの決断が迫られるところとなっています。
石綿救済法の抜本的な改善とあわせて、今こそ「政治の出番」です。

(3)アスベスト被害の風化を許さず、被害実態を全国に発信する

2017年度、「尼崎の会」のニュース「アスベスト被害からいのちを守る」をNo.41号からNo.45号まで、5回発行しました。
私たちは、被害者からの相談のたびに、職歴や居住歴、家族構成などを可能な限り詳細に聞き、家族全員(独立して生家から離れた家族も含めて)のアスベスト健診を勧めています。
アスベストによる疾患は、アスベストを吸い込んで20~50年経過して発症します。「1回検診を受けて異常がなかったから大丈夫」ではありません。前回の検診で全く異常がなくても、数ヶ月後には中皮腫が発症したり、片肺全体にがんを発症したという事例もあります。
「尼崎の会」として、記事を投稿し、「しんぶん赤旗」3月23日付で「深刻な明日ネスト被害 クボタの犠牲者500人突破」が掲載、「兵庫民報」6月25日付で「尼崎—2015年は中皮腫死亡41人、全国の10倍以上のハイリスク」が掲載され、また、民主団体や運動団体でも被害の深刻さと継続した検診受診の重要性などを発信し続けました。
「尼崎の会」参加団体も、全国的な会議や交流会でアスベスト被害の深刻さと今なお続く被害の実態を訴え、また、大阪、京都建設アスベスト訴訟の傍聴支援も続けるなど、全国各地の運動と連携しました。

(4)国・市の責任で、疫学調査と、継続した検診が受けられる仕組みづくりーーー尼崎の中皮腫発症は全国平均の10倍以上

2017年2月6日に、尼崎市は「平成27年 人口動態統計の概要」を発表しました。これによると2015年の中皮腫による死亡は41人(男性26人、女性15人)。次ページのグラフのように、増加傾向は加速しています。全国的には約1,400人が中皮腫で死亡しており、10万人に1人の割合、尼崎は1万人に1人と10倍以上の深刻さです。
本来は国がやるべき施策ですが、自治体にも憲法25条2項による責務があるのは当然のことです。
「尼崎の会」は、かねてから、尼崎市や尼崎市教育委員会に対して、クボタ周辺の学校卒業生に対してアスベスト検診(リスク調査事業、現在は「石綿ばく露者の健康管理に係る試行調査」)の個別周知を徹底すべきことを提案してきましたが、「市報でリスク調査や検診の案内をしている。個別周知は財政的な負担から困難」、「個人情報保護法があり、できない」、堀内照文衆議院議員(当時)が2016年12月7日に「卒業生名簿を持っている教育委員会が検診受診奨励を行う通知を行った場合、その費用を環境省が負担することは可能」(環境省石綿健康管理対策室主査)との答弁を引き出したことは、尼崎市教育委員会にも伝えてきましたが、10月の市議会では、「中学校には名簿がない」と答弁。「生徒の命や健康を守ることは、教育委員会として、何よりも優先させなければならない責任と考える。どのような方策を考えておられるのか」と、尼崎市や尼崎市教育委員会に申し入れ、2017年11月22日、意見交換を行いました。
尼崎市からは尼崎市教育委員会事務局学校運営部学校保健課長、尼崎市健康福祉局保健部疾病対策課長らが対応。
「尼崎の会」から、被害の深刻さを改めて報告するとともに、「超ハイリスク地域の小中学校卒業生に対するアスベスト健診の個別周知の徹底について、教育委員会は、『個別周知は財政的負担から困難』、『個人情報保護法があり、できない』としてきた。しかし、個人情報保護法第16条で、①人の生命、身体又は財産の保護のために必要な場合、②公衆衛生の向上又は児童の健全な育成の推進のために必要な場合、は同法の適用除外となっている。堀内照文衆議院議員に対して2016年12月7日に「卒業生名簿を持っている教育委員会が検診受診奨励を行う通知を行った場合、その費用を環境省が負担することは可能」(環境省石綿健康管理対策室主査)との答弁を引き出したことは、尼崎市教育委員会にも伝わっている。しかし、今日に至って、『名簿がない』と市議会で答弁されたと聞く。真意を聞きたい」と対応を求めました。
市教委、健康福祉局は「深刻さの実態はよくわかるし、個別周知の重要性も理解できる。市教委としても、小田南中学校などに直接出向き、卒業生名簿の把握に努めたが、『卒業後20年を超える名簿については処分する』ことになっており、台帳には名前だけしか残っていない。同窓会名簿は作成されていない」と答え、その後の意見交換を経て、「高校には名簿があるかも知れない。市立の高校もある。県教委と相談して、高校卒業生に個別周知できるよう、検討してみる」ことになりました。
また、尼崎市健康福祉局によれば、大阪大学に依頼しているアスベスト被害の「疫学調査」は、2017年度内にはできるとのことです。
憲法25条は、①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。②国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならないと、国民の生存権の権利と、国(地方自治体)の責任を定めています。市民の「公衆衛生の向上及び増進」は尼崎市の責任です。「個人情報保護法」を口実に、ハイリスクの市民を放置することは許せません。引き続き、各政党や市議会会派への要請を行うとともに、共産党市議団、国会議員団とも連携し、個別に周知徹底させるため、対市交渉を続けます。

2018年度の重点課題

(1)引き続き、被害者に寄り添い、救済に全力をつくす

いわゆるクボタショックの翌年に、アスベスト新法(石綿救済法)が「施行」され、クボタが「救済金」制度を発表し、「アスベスト被害者はみんな救済される」との誤解が広がっています。たとえ「中皮腫」、「アスベストによる肺がん」と診断され、環境再生保全機構に認定申請しても、認定されるのは7割に過ぎません。
事務所では、基本的に常駐体制を取っています。事務局員が事務所に詰め、相談にのっています。新規相談はもとより、これまで寄せられた相談者のフォローなど、引き続き、被害者に寄り添い、申請から認定に至るまで、被害者とその家族とともに、あきらめずに救済に全力を尽くします。

(2)国・加害企業の責任を問い、完全救済をめざす

クボタをはじめとする加害企業、アスベストの使用を後押しし、健康への有害性がわかっていてもアスベストの使用を放置してきた国の責任を明確にさせることなしに、アスベスト被害者の真の救済はありません。
国は、泉南アスベスト国賠訴訟で責任が認定(確定)されても、大阪や京都の建設アスベスト訴訟で国の責任が断罪されても、石綿救済法を「責任の有無を問わずに救済措置を実施する性格」と位置づけています。クボタも、山内さんへの賠償責任が最高裁で決定されても、いまだに謝罪はありません。
国の責任を明確にすれば、「石綿救済法」を抜本的に改善(指定疾病の拡大、認定基準の緩和、労災並みの補償など)させ、被害者の完全救済、ハイリスク者の健康管理を国の責任で行わせることが可能となります。加害企業の責任を明確にすることで、石綿救済法の「救済金」大幅増額、健康管理の財源を、加害企業による「特別拠出金」を増加させることができます。
全国の仲間と、継続した国・加害企業の責任追及に取り組みます。

(3)アスベスト被害の風化を許さず、被害実態を全国に発信する

アジア最大のアスベスト被害を出しているクボタ旧神崎工場。2028年をピークに被害の拡大が見込まれています。ハイリスクの街・尼崎で育ち、働いた人たちが、定年退職後の帰郷や転勤などで全国に散らばっています。単位労働組合や労働組合全国組織の中で、退職組合員等のその後の健康管理(検診)、アスベスト被害者の掘り起こし、全国規模での相談体制の確立のための交流が必要と痛感します。尼崎からあらゆる機会を利用して、被害の実態を発信します。
深刻なアスベスト被害は、これからも続きます。「クボタショック」の震源地・尼崎で、アスベスト問題を「風化」させないためには、学ぶことが必要です。各地で学習会を開催し、問題を共有しましょう。「会」が講師を引き受けます。
いのちと健康を守る全国センターなどの全国的なネットワーク・連携がどうしても必要です。医師・弁護士等の専門家との連携をより強固なものにしていきます。

(4)国・市の責任で、疫学調査を急ぎ、継続した検診が受けられる仕組みづくり

私たちが早くから求めてきたアスベスト被害者の疫学調査については、大阪大学が文科省の助成を受けて2015年度から17年度までの3年間の調査をスタートさせました。2017年度内には完成する見込みです。
私たちは、尼崎市に対して、ハイリスク地域に住んでいたり、通園、通学していた住民・元住民を全員に尼崎市独自の「健康管理手帳」を発行するなど、経年的な健康管理が確実にできるような仕組みをつくることを求めてきました。
2016年に尼崎市は、リスク調査事業に指定されていた鳥栖市、奈良県、横浜市、羽島市、北九州市と連名で、環境省に対して「石綿ばく露の可能性がある者の健康管理についての要望」を提出しました。このなかで、継続した検診が受けられる「恒久的な健康管理システムの創設」を求めています。
国が「責任」を認めていない現状では、実現は容易ではありません。しかし、私たちの粘り強い運動もあって、深刻な被害が出ている自治体がこのような「要望」を提出したことは、大きな励みとなります。
引き続き、ハイリスク者の経年的な健康管理制度の確立を求めます。
今、安倍政権の下で、司法(裁判所)が国民の命や権利を守る立場でしっかり審議されているのか極めて疑問です。従って、今後も裁判闘争を続けると同時に、市政、県政、国政で、アスベスト被害者の真の救済、今後の検診や健康管理に全力を挙げる勢力を前進させる闘いも重要であり、ともに力を尽くしましょう。

以上