2019年3月10日

アスベスト被害からいのちと健康を守る尼崎の会 第14回総会議案

前総会以降の取り組み

「尼崎の会」事務所は、ほぼ常駐体制をとり、アスベスト被害者に寄り添う相談を続け、解決のために全力をあげてきました。
2018年の新規相談件数は13件(内、2件は労働災害)でした。
疾患別では、中皮腫(疑いを含む)7人、肺がん5人、石綿肺1人。
男性が7人、女性が6人。年齢は65歳から92歳でした。
地域別では、市内及び近郊が6人、県外からの相談は7人でした。県外からの相談は、定年退職まで尼崎に住み、働いていた労働者や家族で、すべてが潮江、浜、長洲、常光寺など小田地域に居住歴を持つ人たちでした。
解決した被害者・家族からの紹介、尼崎医療生協の病院や診療所からの紹介、構成団体員の紹介、県外からは「尼崎の会」のホームページを見てなどで相談に繋がっているのが特徴です。
例外を除き、運営委員会を毎月開催し(2018年は11回)、「尼崎の会」構成団体の取り組みや情報の共有、解決策の検討、全国の建設アスベスト訴訟の支援などを協議してきました。
アスベスト疾患かどうかの判断は、環境省の外郭団体・環境再生保全機構が行っていますが、胸部X線やCTの画像診断だけでなく、病理検査結果が重視され、石綿小体数の検査が基準値を超えていれば、認定にかかる期間が早くなる(約2カ月)傾向があります。
さらに、市街地の工場跡地の解体工事が増え、アスベストの飛散が問題となっていますが、大規模マンションの自治会役員からの相談があるなど、事務所の存在も大きくなってきています。

アスベストの暴露を受け、中皮腫や肺がんが発症するまで20年から50年。吸い込んでしまったアスベストを吐き出すことはできません。早期発見・早期治療が大切です。
医療機関や弁護団、関係団体との連携強化を痛感した1年でした。

2018年度のまとめ

昨年の総会で確認した「2018年度の重点課題」に沿って、まとめます。

(1)引き続き、被害者に寄り添い、救済に全力をつくす
2018年の新規相談件数は13件(2017年度より6件増)でした。その多くはクボタ旧神崎工場が操業していた小田地域に居住していたか、通学・通勤をしていた人たちです。
2006年の石綿救済法施行当時は、多くの場合、環境再生保全機構に認定申請すれば約2カ月で認定結果が出ていましたが、今日では審査に「4カ月はかかる」(環境再生保全機構)状況で、生存中に認定決定がされることは稀になってきました。
それでも「尼崎の会」は、被害者・遺族に寄り添い、解決まで全力をつくす努力を続けています。
いわゆる「クボタショック」の翌年(2006年6月)に、国がつくった「石綿健康被害救済法」は、国が責任を認めた賠償制度でなく、責任を曖昧にした「救済」法で、死亡時の支給額は葬祭料込みで300万円足らずの低水準に抑えられており、申請に対する認定率は、中皮腫でも86.2%(昨年は83.4%)、肺がんでは50.6%(昨年は50.2%)、全体でも75.5%(昨年は73.2%)=2018年9月30日現在=と低い水準となっています。認定基準が厳しすぎるからです。「クボタショック」直後に環境大臣が「隙間のない救済」を約束していましたが、「制度はつくったが完全救済はしない」というものです。
この間の相談活動を通じて、医療機関で、中皮腫や肺がんと診断された場合、病理組織検査による確定診断、さらには病理組織内の石綿本数、石綿小体本数の検査結果が重要です。家族と相談し、尼崎医療生協病院の協力を得て、生前中は困難だった病理組織を死亡後に剖検で採取し、確定診断・石綿小体の本数確認によってスムースに認定された事例が4件生まれています。

(2)国・加害企業の責任を問い、完全救済をめざす  クボタの犠牲者は550人
私たちの運動のスタートが、アスベスト被害者の掘り起しと救済、有効な検診制度の確立、そして、国が規制を怠った(むしろ、積極的にアスベスト使用を奨励した)ことによる被害の拡大の責任、クボタが製造工程においてアスベストを有害であることを認識しながら工場周辺に撒き散らかせた責任を問うことからでした。クボタ旧神崎工場を中心とした小田地域に被害が集中し、今後も増え続ける懸念があったからです。現に、いわゆる「クボタショック」から13年が経過し、14年目を迎えようとしています。昨年12月末段階でクボタが明らかにした、クボタ旧神崎工場周辺住民のアスベスト被害者に対する「救済金」の支払いは321人に及び、クボタ労働者に労災上乗せ補償をした229人とあわせて、550人が犠牲となっています。この傾向は、今後も続きます。
最高裁で加害責任が明確になったにも関わらず、いまだに山内さんへの謝罪がないクボタ。クボタは裁判で「50年の経過後に『排出行為に無過失責任』を負わせるのは、経済活動の自由及び財産権に対する侵害で許されない」と主 張していましたから、「いのちを金で買う」のがクボタの姿勢でしょう。
クボタは、環境再生保全機構の「認定」を前提に、「救済金として、最高額4,600万円、最低額2,500万円をお支払い致します」として、加害責任を曖昧にしたまま「救済金」を支払っています。しかし、環境再生保全機構の「認定」被害者全員に支給しているわけではなく、支払いを拒否した事例もあります。
クボタは、人口密集地の旧神崎工場で1954(昭和29)年から95(平成7)年までの41年間にわたって23万トン(中皮腫を発症するリスクが500倍とされる青石綿8.8万トンを含む)を超える大量のアスベストを使用し、石綿セメント管や建材を製造してきました。そして、製造工程から発生したアスベスト粉じんを工場周辺に撒き散らしてきたのです。クボタ旧神崎工場周辺のアスベスト被害者は、アジア最大の規模となっています。この深刻な犠牲の上に、今日のクボタがあるのです。
社会的影響力をもつクボタは、加害責任を素直に認め、被害者全員に、正式に謝罪すべきです。
建設アスベスト訴訟、国を相手に10連勝。建材メーカーの責任も認める
2018年8月31日の京都建設アスベスト訴訟の控訴審は、大阪高裁で、①京都地裁判決に続いて国と建材メーカーの責任を認め損害賠償を命じ、②地裁では認められなかった「一人親方」に対する国の責任を認める、という画期的判決。全面的な勝訴を勝ち取りました。
また、9月20日の大阪建設アスベスト訴訟第1陣の大阪高裁判決でも、国と建材メーカーの責任を認め、あわせて一人親方に対して「国家賠償の保護の対象となる」と救済への道をさらに広げました。国に対する責任は10連勝、建材メーカーの責任は3勝1敗、一人親方の救済は2連勝となりました。
これによって、一人親方、零細事業主を含む全ての建設作業従事者の被害者を対象に、国とメーカー全体に負担を求めた基金により、裁判で認められるレベルの補償を行う基金制度の構築が可能な状況となりました。まさに、国と建材メーカーの決断が迫られるところとなっていますが、国は上告の意向です。

(3)アスベスト被害の風化を許さず、被害実態を全国に発信する
アスベストによる疾患は、アスベストを吸い込んで20~50年経過して発症します。「1回検診を受けて異常がなかったから大丈夫」ではありません。前回の検診で全く異常がなくても、数ヶ月後には中皮腫が発症、片肺全体にがんを発症したという事例もあります。
「尼崎の会」として、特に尼崎の被害の深刻さをと継続した検診受診の重要性などを発信し続けました。
「尼崎の会」参加団体も、全国的な会議や交流会でアスベスト被害の深刻さと今なお続く被害の実態を訴え、また、大阪、京都建設アスベスト訴訟の傍聴支援も続けるなど、全国各地の運動と連携しました。

(4)国・市の責任で、疫学調査と、継続した検診が受けられる仕組みづくり………尼崎の中皮腫発症は全国平均の10倍以上

2018年12月に、尼崎市は「2017年 人口動態統計の概要」を発表しました。これによると2017年の中皮腫による死亡は37人(男性28人、女性9人)。グラフのように、増加傾向は加速しています。全国的には約1,400人が中皮腫で死亡しており、10万人に1人の割合、尼崎は1万人に1人と10倍以上の深刻さです。
本来は国がやるべき施策ですが、自治体にも憲法25条2項による責務があるのは当然のことです。
「尼崎の会」は、かねてから、尼崎市や尼崎市教育委員会に対して、クボタ周辺の学校卒業生に対してアスベスト検診(リスク調査事業、現在は「石綿ばく露者の健康管理に係る試行調査」)の個別周知を徹底すべきことを提案してきましたが、「市報でリスク調査や検診の案内をしている。個別周知は財政的な負担から困難」、「個人情報保護法があり、できない」など、極めて消極的な姿勢を続けています。極めて遺憾です。
また、尼崎市健康福祉局によれば、大阪大学に依頼しているアスベスト被害の「疫学調査」は、「2017年度内にはできる」と言っていましたが、「2018年度中にはできるのでは」と、阪大に「丸投げ」の状況で、尼崎市としての責任を放棄しているといっても過言ではありません。
憲法25条は、①すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。②国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならないと、国民の生存権の権利と、国(地方自治体)の責任を定めています。市民の「公衆衛生の向上及び増進」は尼崎市の責任です。「個人情報保護法」を口実に個別周知に消極的な姿勢を続けていますが、ハイリスクの市民の健康をいかに守るのか、その責任を尼崎市は果たさなければなりません。
引き続き、各政党や市議会会派への要請を行うとともに、共産党市議団、国会議員団とも連携し、個別に周知徹底させるため、対市交渉を続けます。

2019年度の重点課題

(1)引き続き、被害者に寄り添い、救済に全力をつくす

いわゆるクボタショックの翌年に、アスベスト新法(石綿救済法)が「施行」され、クボタが「救済金」制度を発表し、「アスベスト被害者はみんな救済される」との誤解が広がっています。たとえ「中皮腫」、「アスベストによる肺がん」と診断され、環境再生保全機構に認定申請しても、認定されるのは7割に過ぎません。
2018年度のまとめにあるように、アスベスト被害の深刻さはまだまだ続いています。私たちの会の構成団体の紹介、「『尼崎の会』のHPで知った」、解決した人からの紹介など、相談に訪れるケースは様々です。
「尼崎の会」事務所では、基本的に常駐体制を取っています。事務局員が事務所に詰め、相談にのっています。新規相談はもとより、これまで寄せられた相談者のフォローなど、引き続き、被害者に寄り添い、申請から認定に至るまで、被害者とその家族とともに、あきらめずに救済に全力を尽くします。
今年になって、テレビCMで、国がアスベストによる労災被害者に「裁判を起こして和解する」よう呼びかけています。被害者にとっては「裁判を起こす」こと自体が大きな負担であり、「被害者を積極的に救済する」ことと相反しています。
しかも、この「裁判を起こして和解する」被害を受けた労働者の救済要件は、泉南のアスベスト加工工場やクボタ旧神崎工場のようなアスベストを直接材料とする労働現場に局所排気装置をつけていなかった場合に限られており、多くのアスベスト被害の労災認定労働者は対象外となっています。
労働基準監督署は労災認定に当たり、詳細な労働実態の調査を行い、医学的判定と合わせて判断・認定しているわけですから、厚労省はその情報を把握しており、和解条件を満たしている被害者にはその旨を通知し、賠償金を支払えば済む話です。
私たちの相談内容も、クボタ由来の環境被害だけでなく、労災被害者からの相談も多くなっています。労災認定者に寄り添うため、この制度の抜本的な改善を求めながらも、弁護団と研究し、救済活動に生かします。

(2)国・加害企業の責任を問い、完全救済をめざす

クボタをはじめとする加害企業、アスベストの使用を後押しし、健康への有害性がわかっていてもアスベストの使用を放置してきた国の責任を明確にさせることなしに、アスベスト被害者の真の救済はありません。
国は、泉南アスベスト国賠訴訟で責任が認定(確定)されても、大阪や京都の建設アスベスト訴訟で国の責任が断罪されても、石綿救済法を「責任の有無を問わずに救済措置を実施する性格」と位置づけています。クボタも、山内さんへの賠償責任が最高裁で決定されても、いまだに謝罪はありません。
国の責任を明確にすれば、「石綿救済法」を抜本的に改善(指定疾病の拡大、認定基準の緩和、労災並みの補償など)させ、被害者の完全救済、ハイリスク者の健康管理を国の責任で行わせることが可能となります。加害企業の責任を明確にすることで、石綿救済法の「救済金」大幅増額、健康管理の財源を、加害企業による「特別拠出金」を増加させることができます。
全国の仲間と、継続した国・加害企業の責任追及に取り組みます。

(3)アスベスト被害の風化を許さず、被害実態を全国に発信する

アジア最大のアスベスト被害を出しているクボタ旧神崎工場。2028年をピークに被害の拡大が見込まれています。ハイリスクの街・尼崎で育ち、働いた人たちが、定年退職後の帰郷や転勤などで全国に散らばっています。単位労働組合や労働組合全国組織の中で、退職組合員等のその後の健康管理(検診)、アスベスト被害者の掘り起こし、全国規模での相談体制の確立のための交流が必要と痛感します。尼崎からあらゆる機会を利用して、被害の実態を発信します。
深刻なアスベスト被害は、これからも続きます。「クボタショック」の震源地・尼崎で、アスベスト問題を「風化」させないためには、学ぶことが必要です。各地で学習会を開催し、問題を共有しましょう。「会」が講師を引き受けます。
いのちと健康を守る全国センターなどの全国的なネットワーク・連携がどうしても必要です。医師・弁護士等の専門家との連携をより強固なものにしていきます。

(4)国・市の責任で、疫学調査を急ぎ、継続した検診が受けられる仕組みづくり

私たちが尼崎市に対して早くから求めてきたアスベスト被害者の疫学調査については、大阪大学に資料のみ提供し、尼崎市が責任を負う立場をとっていません。
私たちは、尼崎市に対して、ハイリスク地域に住んでいたり、通園、通学していた住民・元住民全員にアスベスト健診が重要なことを個別に周知することも求めてきました。引き続き尼崎市の責任で周知を強化することを求めます。
環境省の委託事業として、保健所で経年的なアスベスト健診事業が続けられています。
1995(平成7)年以前に尼崎に住んでいた、勤務していた、多くの市民は、大きなリスクがあると考え、呼びかけあってアスベスト健診を受診しましょう。

以上